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Cut (カット) 2013年 02月号 [雑誌]

 ロッキング・オンが発行するカルチャー誌「CUT」の2013年2月号です。「たまこまーけっと」が特集されているので買いました。個人的にこの雑誌でアニメを特集しているときは毎号買うようにしています。今回の特集では監督の山田尚子さん、脚本の吉田玲子さん、キャラクターデザインを手掛ける堀口悠紀子さん、そして主要キャスト3人のインタビューの記事が掲載されています。

 その中で「たまこまーけっと」の山田尚子監督の発言があまりにも素晴らしかったので、今回取りあげました。全部を引用するのは野暮なので、冒頭の一言だけ引用します。
 山田尚子「いきなりですけど、わたしは世界を肯定したいんです(笑)」
 この一言だけでうれしくて泣きそうになりました。わかりにくいですよね。ちゃんと説明します(笑)

 えーと、僕はアニメについて疎いので大雑把に語るけど、今のアニメは悲しい作品が多いです。もちろん「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のように悲しさとは無縁の作品もあるし、子供向けのアニメ作品で悲しくない作品も多少はあると思います。「ドラえもん」や「忍たま乱太郎」とかはそうですよね。

 でも少し年齢層が上がるとアニメは一気に暗い作品が多くなります。有名どころで言うと「エヴァンゲリオン」や「ガンダム」なんかその極致とも言える作品だし、最近ヒットした「魔法少女まどか★マギカ」も完全にダークファンタジーです。そこまでいかなくても、例えば「マクロスF」は基本的には恋愛がテーマだけどキャラを深いところまで追うと不幸な過去があったりするし、京アニ制作の「氷菓」も基本的には高校生活を描いているけど、ヒロインが叔父を失ったり切実な場面が描かれています。多少の違いはあれど、今の日本のアニメはどこかで不幸が描かれています。マンガがアニメ化した「ONE PIECE」や「NARUTO」でも重いテーマを描いているわけで。

 さらに細かいことを言うと、ジブリ作品でさえ物語に悲しみや苦しさといったマイナスの感情を描いています。そういう印象が最も弱そうな「トトロ」や「ポニョ」でさえ、主人公たちの成長が物語の原動力になっています。

 その流れに一石を投じたのが「けいおん!」です。


 「けいおん!」は悲しいことやつらいことが描かれていない作品です。主人公の女子高生たちが高校の軽音部の部室でゆるい日常を過ごします。言うまでも人が死んだりするわけではないし、誰かが失恋するような展開もないし、受験勉強が行き詰まって自殺するような展開もありません。普通の高校生活らしい生活をします。朝家を出て、クラスで友達と話をして、放課後にギターの練習をして、休憩時間にお茶をするだけで物語になります。

 僕はどうしてそれだけの物語が作品として成立するのかが不思議でした。原作ありきの話とはいえ、表現者がそういう話を描く動機もわからなかったし、実際に作品を観て感動しても社会現象の規模でヒットする理由もわかりませんでした。

 でも今回のインタビューで山田尚子監督は前述のように「わたしは世界を肯定したいんです(笑)」の発言を読んで、もう気持ちいいほどやられたというわけです。ああ、自覚してやっていたのかと。僕は世界を肯定してもらいたかったのかと。ちなみに記事ではその発言の理由にまで踏み込んで話をしています。

 この一言だけで、「けいおん!」の主人公の平沢唯は山田尚子監督そのままだったんだなー!と思いました。自分は「けいおん!」の主要キャラの中では唯が好きで、それは意外性と意思の揺るぎなさが理由だったけど(かわいいってのもあるけど)、それは山田尚子監督の性質でもあったということがわかりました。今回の「たまこまーけっと」の主人公のたまこにもそれが投影されていると思うので、本当に次の話が待ち遠しいです。というわけで、自分のようなファンにとっては必見の記事でした。これから熟読します。