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 TVで放送されていたのを観ました。とてもおもしろかったです。ただそれ以外に印象に残ったものが非常に少ないので、良い映画だけどインパクトに欠けるというのが正直なところです。

 脚本を宮崎駿が手掛けたこともあって、宮崎吾郎監督が物語の大枠に手を出すことはなかったと思うのですが、その分ほどよく仕上がっている感じがします。というのも宮崎駿が監督をする作品の場合、力が入り過ぎていて息をつく暇もないからです。でも宮崎駿が監督をしない方がいい具合に力が抜けているというか、おそらくその監督に裁量を委ねる部分が少なからずあるので、結果的に気楽に観れる娯楽作品に仕上がるのだと思います。

 それならこの作品の宮崎吾郎の作家性はどこにあるのか?という話になると思います。そこが難しいんですよね。

 というのも、過去の「ゲド戦記」、もしくは「借りぐらしのアリエッティ」にしても基本的に監督は脚本にノータッチで、つまり宮崎駿の代わりに宮崎吾郎や米林宏昌が監督をしているわけです。そうして出来上がるものはジブリ色が強いと言うか、結局のところ宮崎駿が作り上げてきたもののコピー品になるわけで。それにもかかわらず、観る人によっては今の宮崎駿作品よりも楽しめるところに、宮崎吾郎や米林宏昌が監督を務める理由があるのだと思います。

 個人的にこの映画で一番印象的だったのは、高校の文化部部室棟「カルチェラタン」を掃除する場面です。テンポよく描かれていて観ているだけでワクワクしたのですが、考えてみると宮崎駿も「ハウルの動く城」で掃除をする場面を描いたわけで、ここに宮崎吾郎らしさを見出していいのかについては、正直、僕の手には余ります。

 それじゃあ、この「コクリコ坂」には宮崎吾郎らしさを見出せないので、宮崎吾郎に監督の才能がない、もしくはこの作品は駄作なのか?ってことになるのですが、それに対する僕の答えはNOです。

 この作品は困ったことにひたすらおもしろいです。「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」「天空の城ラピュタ」の頃のジブリ作品を思い出します。宮崎駿という巨大な才能と作品がうまい具合に離れていることも影響しているし、作り手に若さがあることも大きな理由だと思います。僕はこの作品を観て宮崎吾郎の作家性については1mmもわからなかったけど、とにかく映画自体はすごく楽しめたし、正直それで充分だし、昔のジブリってこうだったなーっと思って懐かしくなりました。「千と千尋の神隠し」や「もののけ姫」をもう一度観る気にはなかなかならないけど、「コクリコ坂から」は多分、すぐに見返したくなる。(★7)