Milk_(film)

 ガス・ヴァン・サントというと作家性が強い監督のイメージがあるのですが、今回の『ミルク』に関しては監督らしさをあまり感じなかったので、とてもいい演出だったのだと思います。裏方に徹しているというか。演出や絵作り、俳優の演技よりも(ショーン・ペンは素晴らしかったですが)、ゲイカルチャーのリアルそのものが僕にとって衝撃的でした。格別気持ち悪いと思ったことが無いので、我ながら比較的理解があると思っていたのですが、頭でわかっているのと映像で見るのは別物です。ショーン・ペンが若い男とキスする映像にはびっくりしました。昔ストリップを観に行ったことがあるけど、あれよりずっと凄かったです。

 映画自体はサンフランシスコのカストロ地区を舞台にゲイであるハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)が社会の不平等を改革すべく行動を起こす物語です。マイノリティな立場に属しながら2度の落選を経て市議会議員になり、同性愛者を弾圧する条例の破棄に全力を尽くす姿は尊敬に値します。ですが僕としてそのあたりのことは「へえ」くらいにしか思えませんでした。凄いとは思うし尊敬もするのですが、物語的には地味というか。映画館で2時間かけて見て満足するほどのものではない気がします。というわけで、史実の通りに最後に暗殺されても「別に」って感じでした。

 やはり衝撃的だったのはリアルなゲイの生活です。「そんなふうに誕生日を祝うのか」と思いました。描写自体はとても心温まるもので、だけど自分には無理で、でもだからといって排除すべきものだとは思わないけど、カトリック原理主義者が排除したくなる気持ちもわかりました。この映画によると人口の5%に同性愛者が存在するみたいで、そういう人たちは一体どういう神の悪戯を経て同性愛に至ったのかが個人的に気になります。どうして男が男を好きになるのかが不思議だけど、そう考えると男が女を好きになるものも不思議なわけだから、まあそういうこともあるのかなーと自分の中では完結しました。(★6)