
claire
なんていうか、すごくいいんですけど、切り口に困るアルバムなのです。
このアルバムと渋谷系の考察については柴那典さんがブログで記事を書いているので、そちらを読んでいただけたら。僕は渋谷系に関しては小沢健二の『LIFE』とpizzicato fiveのベスト盤くらいしか知らないので、むしろ渋谷系以降の00年代における日本のポップミュージックに近い印象を受けました。具体的にいうとYUKI、EGO-WRAPPIN'、東京スカパラダイスオーケストラ、中島美嘉あたりです。主にこのアルバムにおけるジャズ、エレポップの成分が作用しているのだと思います。
そして前述の00年代のポップミュージックと花澤香菜を隔てるものは、言うまでもなく彼女のアニメ声優としての出自です。こういう普通にポップミュージックとして浸透しうる音楽がアニメの声優の音楽というフィールドで生まれることが00年代後半から最近の流れなのだとすれば、花澤香菜のこのアルバムはその決定打といえる作品です。アニメ音楽の分野だけではなく、明らかにポップミュージックのリスナーにも聴かれるべき音楽になるべきだし、そうなると思います。
だけどこれはいわゆる00年代のポップミュージックとは違う気がするのです。
つまりYUKIやEGO-WRAPPIN'、もしくは木村カエラの初期のミト曲、そういうものとこれを隔てるものは何か。それは声優としての側面だけではなく、彼女のエゴというべきものが投影されていないように思えるのです。つまり僕はこの音楽のどういう部分に共感していいのかがいまいちわからないのです。
渋谷系と00年代のポップミュージックが異なるのは、自分たちの内面性を色濃く投影する度合いだと思います。小沢健二やpizicato fiveの音楽に中身が無いと言いたいのではありません。むしろ音楽そのものに中身をさらけ出しているにもかかわらず、そこに暗さや重さを投影していない、その洗練されたセンスが渋谷系の本質でした。
だからこそ曲にエゴを投影しない花澤香菜のあり方に、00年代の音楽をこよなく愛し育ってきた僕は戸惑いを感じました。もちろん彼女はお人形ではないし、声優としてのキャラクターもあります。僕が声優としての彼女のことを知らないからそれが伝わってこなかっただけの話です。むしろ同じ声優畑の歌い手としては最近の中島愛の方がわかりやすいし、共感が出来るというか。もちろんあくまでそれは僕の好みの話です。
とかいいつつ上記のようにいろいろ理屈をこねたわりに、ごく当たり前に質が高いこのアルバムの良さには抗えないんですけど。やっぱりここに収められている音楽は良いです。僕が馴れ親しんだものとは違うけど、とても楽しい音楽だと思います。このアルバムの中の「新しい世界の歌」や「happy endings」の良さには完敗というか、そもそも勝敗なんて無い話なんですけど、でもやっぱり凄くいいです。(★7.2)
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