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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 結論から書くとおもしろかったのですが、何よりも「おもしろい」と思うのが自分でも意外でした。というのも自分は村上春樹のファン(でも死んでもハルキストは名乗らない)で、エッセイも含めてほとんどの作品を読んでいるのですが、最近の小説に関してはあまりおもしろいと思わなかったからです。2002年の『海辺のカフカ』はわりと楽しめたのですが、好みでいうと割と微妙だったし、『アフターダーク』以降に関しては部分的にニヤニヤすることはあっても作品そのものは苦手でした。明らかに歳を取ったというか、僕が村上春樹の年齢についていけなくなったというか、とにかく新作を読むくらいなら1988年の『ダンス・ダンス・ダンス』(←最高傑作)か、エッセイ側の『村上朝日堂の逆襲』を読んだほうがいいと思っていました。

 というわけで、想像すらしてなかったから買うつもりさえ無かったのですけど、宇野維正さんのツイートを見て少し期待してしまったんですよ。


 「あれ?音楽の書き手の中で二番目に辛口な(一番はタナソー)あの宇野さんが!?」というわけで、走って本屋まで言って買って来たのでした。まだ残っててよかった!

 そしたらね、おもしろかったんですよ!見事な逆転ホームラン。完全に想定外でした。宇野さん、ありがとう!

 色々書きたいことはあるけれど、やっぱりリアリズムの村上作品は傑作になる運命なのだと思います。「ノルウェイの森」と肩を並べる作品です。ただ純愛小説というほどのものではないので、そちらに吐き気をもよおす人も心配要らないかと。

 ネタバレにならない程度に書くけど、個人的に村上春樹の小説で泣いてしまったのははじめてです。感動的というわけではないのですが、なんていうかこんなに「救われた」ことに実感を持ってしまう場面は今までありませんでした。あと物語がシンプルなのも良かったというか、「ねじまき鳥」以降、世界観の複雑化がシャレにならないレベルになっていたので、今回でリセットされたのかも。

 もうね、村上さんにはエッセイも含めてあまり期待しないようにしていたのですが、僕が間違っていました。完全に敗北でした。心の中で土下座しつつ、二週目に入ります。そのくらいおもしろかったんですよ!(★8)


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹

文藝春秋
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