
★10
ジブリは大体の作品を観ていて、大体が好きです。だけどダントツで好きと言える作品も無かった。例えば「もののけ姫」のような部分的に美しいと言える作品もあるけれど、好きか嫌いかでいうと微妙。「崖の上のポニョ」も物語やキャラクターは好きだけど、それでも腑に落ちない部分もある。僕にとってジブリ作品は好きだけど欠点や毒があるものだ。だから宮崎駿の作品の中では、ジブリ以前の「カリオストロの城」が最もシンプルでストレートなので一番好きだった。そして「風立ちぬ」はそういう人間が待ち望んでいた作品だった。
なぜ「カリオストロの城」が好きな自分が反応するのか。菜穂子に命を捧げる二郎の姿がかっこいいからだ。クラリスを守り抜く老いし日のルパンのように、二郎は菜穂子を守った。古くさい考えだけど、男が愛する人を守るのは当然だと思う。強い女性も素敵だし、今作の菜穂子も個人的には呆れるくらい強く誇り高い女性だけど、それでも二郎はかっこよかった。二郎は自分を省みず、愛する人の死さえ乗り越えて、戦闘機の設計に尽力した。その姿は大きな喪失を乗り越えて、エヴァを作り続ける庵野秀明の姿と重なる。安野モヨコに出会えたからこそ「エヴァ新劇」があって、「風立ちぬ」の二郎があるのだと思う。声優としての庵野は素晴らしかった。プロとしては西村雅彦と野村萬斎がすごく上手だったけど、庵野は完全に素だった。庵野が二郎そのものだからこそ、この作品に入り込めた。
物づくりに携わる末端の中の末端に位置する人間として、励まされ、同時に打ち拉がれる作品だった。宮崎駿の作品の中で一番好きだ。最高傑作だと思う。この作品に出会えてよかった。ありがとう。長生きしてください。
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