
後出しじゃんけんで申し訳ないけど、この2ndアルバムに対して頭が「?」になった人は案外少なくないはず。決して悪い作品ではない。むしろ完成度は高く、きゃりーぱみゅぱみゅの理想型といえる仕上がりだと思う。名曲だらけで隙がない。それでいて気軽に楽しく聴ける。詰め込み過ぎている印象も無い。しかし印象も残らないのだ。それが悪いわけではない。ひたすら楽しい曲を聴いて楽しい時間を過ごしたことは覚えている。ただ何を聴いていたのかがはっきりしないのだ。美しいでも凄いでも怖いでも不快でもなく、ただただ楽しい時間を過ごし、何も残らない。
そういうものがどこかにあったことを思い出した。タモリだ。先日「タモリ論」を発表した小説家である樋口毅宏が先日cakesのインタビューで話していた。
cakes - 【 第1回】タモリはきゃりーぱみゅぱみゅが好き
樋口 このあいだ、『いいとも』のテレフォンショッキングで、タモリさんがまたすごいことを言ってましたよ。あの人、あの脚のキレイなお姉ちゃんが出てたとき……。
—— 山岸舞彩さんですか?
樋口 そう! よくわかりますね(笑)。その山岸舞彩さんが出てたときに、タモリさんは「俺、テレビなんかで伝えたいと思ったことなんて一回もないよ」って言ってたんです。これ、名言でしょ! 「だから俺、きゃりーぱみゅぱみゅが好きなんだ。『つーけま♩ つーけま♩ つけまつける♩』だよ」って。
タモリの「笑っていいとも!」は楽しいけれど記憶に残らない。きゃりーの音楽もそういうものだと思う。しかし60歳を過ぎたタモリならまだしも、20歳そこそこの女の子が「楽しさ以外何も残らなくていい」ということを意図的に実現しているのだとしたら少し怖い。もちろん「笑っていいとも」がタモリだけの番組ではないのと同様、きゃりーぱみゅぱむというプロジェクトも多くの人間が関わっているものだ。ただそれを加味した上でもきゃりーの絶望は深い、のかも。そう思いながら聴いた。
あとアルバムトータルの安定感も凄い。BPMを統一しているのではないかと疑いたくなるほどに隙が無く、ただただ楽しい時間が続く。今年聴いた電気グルーヴのアルバム『人間と動物』に近い印象を抱いた。あの捻くれた2人がデビューして20年以上経ってはじめて辿り着いた境地であるのに、きゃりーはあっさりと2ndアルバムでその場所にたどり着いた。それは普通じゃない。だから怖い。(★7.6)
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