JIRO-DREAMS-OF-SUSHI-Trailer-1

★6

寿司と狂気の王国というべきか……。

銀座の寿司屋「すきやばし次郎」の85歳店主・小野二郎を追ったドキュメンタリー映画。お店は最低3万円からで、だいたい一月前からの予約が必要。ミシュランで長年三ツ星を獲得していて、当時85歳の店主の三つ星獲得は最年長。その伝説の父親と共にに店を運営する長男・禎一、そして修業を経た上で六本木で店を開業しら次男・隆士など周囲の人間の様子も映されている。2011年にアメリカで公開。監督はデヴィッド・ゲルブ。日本では今年公開された。

とりあえず、お寿司が食べたくなった。もちろん「すきやばし次郎」のお寿司が食べることができればいいけど、物理的にも金銭的にも難しい。ただそれに見合うだけのお寿司がこの世にはあるし、生涯をかけてそれに向き合っている人がいることがわかった。素晴らしいことだと思う。しかし観ていて思ったのは、彼が誰よりも狂っているということだった。お寿司に最低3万円という世界は狂っているし、85歳でお寿司を握ることも狂っている。そのために毎日同じ道を通ってお店に来ることも狂っている。

観ていて思い浮かんだのは宮﨑駿と村上春樹。宮﨑駿は毎日同じ時間に通勤し、同じ時間に同じ弁当を食べる。村上春樹は朝3時に起きて午前中いっぱい小説を書き、午後からは翻訳やスポーツをして、午後9時には寝る。おそらく二郎も同じような人間なのだと思う。徹底的に無駄を排除し、日々同じことをする。それが洗練された美を生む。

 基本的には本当に美しいお寿司とその調理の過程、そしてそれを生み出すお店の精神、そしてチームワーク、あとは二郎や息子たちの哲学が描かれていた。一方で二郎の成功の陰にある狂気や歴史といったものは間接的にしか描かれていなかった。その点は不満だったけど楽しく観れた。おいしい寿司が食べたくなった。お寿司っていいよね。