Odani_Misako_us

★7

小谷美紗子、6年ぶり12枚目のオリジナルアルバム。

1

とても誠実なアルバムだと思う。

僕は小谷美紗子の音楽を長年聴いてきたわけではなく、先行公開された「手の中」が猛烈に好きでアルバムまで手を伸ばしてしまったただのにわかファンだけど、彼女が真面目な人間だということがよくわかった。というのも、このアルバムは3・11以降のこの国をを淡々と刻んだ作品だからだ。

あのような国が揺れるような大きな出来事に直面した時、大抵のアーティストは悲しみが癒やされるような曲を歌う。しかし彼女はあの時の状況をデフォルメすることなく、そのまま歌にした。このアルバムは彼女の目を通して描かれた3・11以降に分断されてしまった僕らなのだと思う。

2

このアルバムでは最初の「enter」で分断について歌われる。

NO NUKES NO NUKES
叫び続けた 学者さん
NO NUKES NO NUKES
変人扱いされて 死んで行った
「enter」

手の平 返した
今まで 放って置いたけれど
こんなに大きな声が 出せるんだ
この国を振り向かせるほどの 大声を 僕ら
「enter」

オルガンの優しい音で、穏やかに淡々とあの時の出来事が歌われる。正直きつい。僕は当事者とは言えないほど遠くで事態を見守っていた人間に過ぎないけど、この曲を聴くとみんながばらばらになってしまったあの頃を思い出してつらくなる。

音だけ聴いているとわかりにくいけど、実はこのアルバムではかなりきついことが歌われる。聴く人にとって自分を重ね合わせてしまうような言葉が並び、結果重くのしかかる。

3

だから彼女は逃げる。それを許す。

歌って逃げよう runrunrun
泣きたい時は runrunrun
「runrunrun」

平気だけど 平気じゃない
気休めでもいい 少し消えたい
「universe」

4

そしてこの分断されてしまったこの国で、また再会することを願う。

方方に散って行く人 そこに居続ける人
互いの道を いつの日か 許しあえる日が 来て欲しい
「東へ」

5

感想というよりほとんど歌詞の引用になってしまったけど、つまり僕が言いたいことは、このアルバムは確かにどこか優しいところがあるけど、基本的には聴く人にビンタを浴びせるようなきついアルバムだということ。2011年、それだけのことがこの国には起こったのだし、彼女はそれを音楽にした。ただそれだけだ。

こういう例えをするのもどうかと思うけど、庵野秀明の「エヴァQ」のような傷つきながらそれでも生きる人達を描いた作品だと思った。聴くうちに徐々に自分の中での存在感が増していく作品だった。

小谷美紗子「手の中」