takahasi2

★9

高橋徹也が7年ぶりに発表した通算7枚目のアルバム。

1

僕は2013年まで高橋徹也の名前すら知らなかった。僕が音楽を聴き始めた1998年に高橋徹也は当時所属していたキューンソニーから最後のアルバムをリリースし、表舞台から姿を消した。だから僕のように彼のことを知らない人のために少し説明すると、高橋徹也は1996年キューンソニーからデビュー。レーベル在籍時に3枚のアルバムとシングル7枚をリリース。2000年以降はこれまでにVIVID SOUND CORPから3枚のアルバムをリリースしている。デビュー当時の高橋徹也はよく小沢健二と比較されていたらしい。確かに声は似ている。

そもそもロックなのかジャズなのかさえわからないまま、2005年の『ある種の熱』を数曲視聴しただけでこのアルバムを通販で取り寄せたのだけど、それは大正解だった。

2

アルバムを再生した瞬間、驚くほど美しい上田禎のピアノが鳴り響き、高橋徹也のギターがそれに重なる。そこに加わる鹿島達也のベースと菅沼雄太のドラム。歌が始まる前の段階から完成していたサウンドに息を呑んだ。

演奏、歌、歌詞、そして緊張感、そのすべての調和が素晴らしい。しかし2曲目の『ハリケーン・ビューティ』という疾走感溢れるロックナンバーが、それらすべてを過去と追いやる。ジャズとロック、彼の中の2つの要素が他に類を見ない様な高いレベルで鳴らされる。音楽的なゴージャスであるというのは、「有名なミュージシャンが参加している」とか「ジャズの要素が含まれている」ことで決められるものではなく、演奏に少しの無駄もなく洗練された美しさを持ち合わせていることだ。本当の意味でゴージャスなアルバムだと思う。

表題曲でもある「大統領夫人と棺」でこのアルバムはピークを迎える。ポエトリーリーディングから始まる不穏な雰囲気や、その先の「君の中で何かが変わる」と叫ぶ展開がとてもスリリングだった。

3

実はこのアルバムを聴いて彼の音楽にハマり、既に2005年の『ある種の熱』や1997年のシングル『チャイナ・カフェ』、それから2012年にリリースされたオーダーメイドのキューンソニー時代のベストアルバム『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』を聴いた。昔からそのスタイルが変わっていないことに驚いた。ただキャリアを見渡しても今作『大統領夫人と棺』は研ぎ澄まされた一枚だと思う。

試聴できる音源が少なく、YouTubeに投稿されている弾き語りの映像ではその魅力の1割程度しか伝わらないので手に取るためのハードルは高い。だけど多くの人聴いて欲しい。これほど素晴らしい音楽が気軽に聴けないのは馬鹿げてる。