★8
重いようでゆるいような、それでいて泣けるような。
中田ヤスタカがPerfumeやきゃりーぱみゅーあみゅでJ-POPの最新型を更新しながら、CAPSULEという母艦で自由気ままに音楽を作るの見ていると、globeでJ-POPを作ることをやめた小室哲哉を思い出す。売れ線の曲を作ることに飽きていた小室哲哉はglobeで徐々にトランス、そしてその先のジャンル分けしにくい音楽を作るようになった。中田ヤスタカの関心も同様に変化しはじめたように見える。もともと「Starry Sky」や「FLASH BACK」のようなテンションの高いを作っていた頃から、ハウス界隈において異端だった。大沢伸一やFPM、m-floといった90年代後半のハウスシーンに近い場所にいながら、00年代のダブステップを歪な形で投下していたのがcapsuleだった。そして今、彼はダンスミュージックであることすら意識しなくなった。
きっとそういうものを作る時期だったのだと思う。後期globeで「Many Classic Moments」を書いた小室哲哉、もしくは初期3部作の終わりを迎えた椎名林檎の『加爾基 精液 栗ノ花』のように、今までの自らの持ち味だけでは到達できない作品を創りだそうとしたのだ。
今までにない、厳かな雰囲気が漂っている。まるでJames Blakeやアントニー・ヘガティの新譜のように、背筋を伸ばしてこのアルバムと向き合わなければいけない。そんな気持ちになる。それでいて他のどのアルバムよりもリラックしながら聴ける雰囲気もある。冒頭の「HOME」からはタイトル通り家の懐かしさみたいなものを感じた。中田ヤスタカというアーティストの作品から家っぽさを感じるのは意外だった。「CONTROL」「12345678」「ESC」で、音楽がはじまる過程が垣間見れる。キーボードを叩く音、軋む音、サイレン、ボールが落下する音など、一見音楽には聴こえない物理的な音が、少しずつ絡みあうことで音楽に変わる。「SHIFT」では今となっては懐かしいポップなCAPSULEがそこに居る気がするものの、こしじまの声はバラバラに切り刻まれている。ただそれでも楽しい。ちょうどいい感じで楽しい。
そして「ESC」「SPACE」「RETURN」でアルバムは幕を閉じる。だけどあまり終わる感じがしない。このアルバムはここで区切られるけど、中田ヤスタカの音楽は続いていく。享楽的だったり、荘厳な雰囲気を漂わせたりしながら、それでもある種の気楽さを持ち合わせている。このアルバムを聴くまでそういう人だとは思わなかった。今回たまたまそういう気分だったのかもしれないけど、限りなくアート的な作品を、気持ちのよい温度で終わらせてくれるこのバランス感覚は見事だった。
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