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★7

腹黒ユイちゃんの、その先を行く橋本愛がいた。

あまロスを埋めてくれたのは橋本愛だった。僕にとって『あまちゃん』はユイちゃん=橋本愛の物語だったのだ。世界の中心が自分であることを信じて疑わず、そのことを自覚した上で努力するアイドル志望の腹黒最凶女子・ユイちゃん。だけど『あまちゃん』は彼女の世界ではなかった。だから彼女は負けた。でもそのおかげで彼女はお嬢様女子高生からヤンキー、そしてすべてを経験した上での地元アイドル・完聖体になることができた。

そんなユイちゃんの次なる戦地、それは天才・変態・数学女子大生くるみ。彼女が数学を駆使して事件の謎を解き、相棒役の刑事・高良健吾を振り回す。『ハードナッツ!』はその姿を見ているだけでほっこりするような素敵なミステリーだった。

ところが『TRICK』シリーズでお馴染みの脚本家・蒔田光治はそんな気楽な作品の最後にとんでもない爆弾を用意した。多くの犠牲者を生み出したウイルス事件が起こり、次々と救いようのない事態が発生する。そこに橋本愛が介入する余地はない。彼女が事件の謎を解いたところでどうしようもない事態が起こり、その毒牙は高良健吾をも襲う。そして彼は狂気に駆られる。後味の悪い展開が最後に待ち受けていた。

そんな状況の下、橋本愛は走った。運動音痴特有の残念なフォームで。それで事件が解決するわけでもないのに。最後の事件は完全に負け戦だった。だけどそこに悔しさも悲しみもなかった。ただその場に居合わせるだけなのに、最後まで橋本愛から目が離せなかった。

このドラマには『桐島、部活やめるってよ』のクールビューティ女子高生でも『あまちゃん』の猪突猛進型のアイドル志望女子高生でもない、悲しみの地平線に立つ彼女がいる。最初は気楽なミステリーだと思っていたのに、こんな途方も無い橋本愛が見れるとは思わなかった。毎週楽しかった。