1011534_03

★8

『トリック』シリーズの3年半ぶりの劇場版第4作にして、同シリーズ完結編。

1

前回のおさらい。

堤幸彦の映画はおもしろくないし、今までの劇場版トリックもおもしろくなかった。

なぜなら堤幸彦は根っからの職業監督。断れない男なんだよ!

あれ?でも『TRICK 新作スペシャル3』は良かったよね。

え、鬼の「月光」も聴けるの?こりゃ劇場版を見ねば!

というわけで、念願の劇場での鑑賞。しかし予想に反して入場と同時に場内では「月光」のエンドレスリピート。もう聴けちゃうのかよ・・・と思いつつ、この時点で涙ぐんでしまった。ちょっと自分のトリック及び鬼束ちひろ信仰っぷりは傍から見れば引いてしまうレベルだと思う。

2

ようやく本編。すべてがネタバレになるし、活字にしたところで一切おもしろくないので伏せるけど、とにかく小ネタの嵐。ちょいちょい笑えるネタをこれほどまでに膨大な物量で畳み掛けられると笑わざる得ないレベルになる。死ぬほどくだらないネタが積み重なって、結果、本筋にさえギャグが侵食する始末。

だけどこれが気持ちよかった。前半は笑いが止まらなかった。確かにネタは多いし、映画だけあって気合が入っているのだろうけど、不思議としつこくない。とてもラフで軽やかなギャグがこれでもかと降ってくる。普通、こういうことをすると悪趣味になりがちだけど、今回はひたすら軽やかでわかりやすいものがほとんどだった。どうしたんだ、堤幸彦。この時点でかなり好感触だった。

3

物語の筋そのものはいつも通り。つまり阿部寛が依頼を受けて、仲間由紀恵が騙されて連れてかれ、事件が起こり、謎を解く。そして金田一耕助的な少し後味の悪い展開。劇場版ではそのあとに一騒動がある。これもいつも通り。

今回のメインゲストは東山紀之、北村一輝、水原希子。ただトリックの場合、ゲストの演技云々に左右されることがほとんどないので基本的に印象が薄い。ただ東山紀之のオーラの無さは本当に素晴らしかった。終盤、ようやく背筋を伸ばす場面があってようやく東山だということがわかったくらい。北村一輝は期待通りの安定感だったし、水原希子も想定内。既定路線。

4

しかしどうも仲間由紀恵の様子がおかしい。そもそも劇場版になるとドラマ1stのラストのように不幸なヒロイン色を纏い暴走するのが普段の彼女で、それを止めるのが阿部寛というのが今までだった。だけど今回は敵役の謎を解いた仲間由紀恵が「まあいいか。そんなこと」と言った。いままでそういうことがあったかについては、過去のシリーズを見返していないので全くなかったとは言い切れないのだけど、ここまで敵に対して理解を見せる仲間由紀恵ははじめてだと思う。

それだけではない。過去の劇場版同様、彼女は最後に無茶をするのだけど、そこに悲壮感が無かった。かといって無事に切り抜けられる自信があるわけでは決してなかったと思う。だけどいつもなら強引に止めようとする阿部寛でさえ動けなくなる。それは観ている僕らも同じ。それを言われたらどうしようもない。笑顔で見送るしか無い。

5. last scene

そして最後の場面。できるだけネタバレは書かないつもりだけど、まだ鑑賞前でネタバレが気になる人は読まないで下さい。

今回のトリック完結編は「『踊る大捜査線』が昨年終わりを迎えたから、ほぼ同じ時代のトリックも一度終わるかー!」程度の動機ががそもそもの発端だと思う。だから観る前は5年後に再開すると思ったし、これを観た今でも5年後再開されてもまったく怒らない、むしろ歓迎します!というのが僕の姿勢だ。だけどまさかラストシーンまでODをパクっているとは思わなかった。偶然なのか故意なのかはわからないが、結果的にこのラストシーンの出来で僕の中でこの2つのシリーズに対する評価が逆転してしまった。

ODは最後の最後に織田裕二がシリーズの最初と同じ場所で同じことをして幕を閉じた。そしてトリックも同じことをした。鬼束ちひろの『月光』が流れだし、懐かしいあの頃の二人がスタッフロールとともに映しだされる。そして姿を消した仲間由紀恵が再び阿部寛の前に姿をあらわし、14年前とまったく同じマジックを披露する。おかえりなさい。僕はあの時、完全に阿部寛だった。

6

最後の最後で堤幸彦は、僕らを14年前のあの頃に連れ去ってくれた。今回は全編にわたってずっと楽しく同時に目が離せなかったのだけど、やはり圧巻なのは最後の場面だった。14年間、ともに歩めてよかった。また会いたいし、今回の映画が素晴らしかっただけにその可能性もあると思うけど、とりあえず一区切り。今まで映画になるとクソみたいな作品しか作らなかった堤監督の作品の中で、ドラマを含めても一番好きです。いままでありがとう。トリックを少しでも好きになったことがある人は全員観るべき作品だと思います。僕は最低でもあと2回は観に行きます。

346405view001

7

ところでまだその原稿はチェックしていないのだけど、どうもパンフレットによると最後の場面、仲間由紀恵は記憶喪失状態の山田奈緒子として演じていたということ。

上田さんがいくら涙ぐもうと
こちらにとっては初めて会う人だし!という感覚で
見知らぬ人相手にしてる気持ちでやってた

これは衝撃、というか貞子の演技は完全に照れ隠しと思っていただけにショック。実はこれと同じようなことをODの完結編で本広監督がやっている。

深津さんは、「こんなせりふ、私は言えないです」と言いましたが、僕は「確かにその通りだ。でも深津さん、もし、すみれがここで亡くなっていたとしたら、このせりふをどう思いますか」と読んでもらったんです。そうやって演出したシーンなんです。実は見てもらうと分かるんですけど、すみれさんはそれ以降、一切出てこないんです。
出典:毎日新聞

もちろん観る人がそれぞれ好きなように解釈してしかるべきだと思うけど、本当に映画監督って冷徹。にもかかわらずこれだけ両作品の評価が分かれてしまったのはなぜなのか・・・